そこは古風で豪華なホテル。 俺は無言でエレベーターを待っている。 そのエレベーターは他の装飾同様に、レトロな造りだ。茶色い鉄板にロココが飾られている。 バーの看板は桃色に淡い光を発している。客足は少なくステージも静まり返っている。 座席の向こうの方にバーのカウンターが見える。客席のすぐ近くにエレベーターがあるのだ。 そこのウェイトレスらしき女性が歩んできた。随分と露出度の高い服を着ていた。 「あの、そのエレベータはもう動きませんけど。」 控えめな口調で言う。 「そうか」 「あの、下に降りたいんでしたら西側のエレベターがありますよ。あと、すぐ近くに階段がありますけど。」 「ん?いや。やっぱりいいんだ。もう少し飲んでから降りるよ。」 「あ、はい。」 そういってカウンターの奥に入っていった。 俺は、カウンターの人に酒を注文しそれを受け取ってから、一番奥の座席へと移動した。その席は三方を壁で囲まれていた。 「ここにいれば、まあ、見つかんないだろ。」 そう俺は言って、オーバーコートの中から懐中時計を取り出し時間を確認する。もう9時か・・・。 さっきのウェイトレスが酒のボトルとグラスを持ってきた。ゆっくりと酒を注ぐ。俺は深いため息をついてクラスを手に取る。 バキン 俺の飲もうとしていたウイスキーグラスが割れた。俺は驚きに目を見張った。 手の中に酒が溢れる。しかし俺が目を見開いて見ているのはその向こうにいる少年だった。 「お前のせいで・・・」 螺旋階段を駆け下りる。 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタ……… ものすごいスピードで駆け下りる。しかしそれはいつもの駆け下りるスピードなのであいつには敵っていない。 早い。これはやばいぞ。なんてスピードだ。あいつはまだあんなに小さいのに、これが執念か。 殺される。追いつかれたら必ず殺される。だから俺も本当に本気を出さないとやばい。 俺は思い切って階段を。10数段飛ばしてみる。 「………った!」 足に痺れが来た。しかしここで止まるわけにはいかないいかないんだ。 っくこれでは足が痛くて全然もたない。という事はどうする何か考えなくては。 これしかない…… 俺は螺旋階段の中央の空間に身を投げた。 何で俺はこんなことをしているのだ。こんな恐ろしいことを。そう、これは恐怖。あいつに支配されるという恐怖。自分の時間が終わってしまうという恐怖。 だがなぜ、その恐怖を振り払うためにこんな恐ろしいことをしなければいけないんだ・・・。助けてくれ・・・。 俺は一番下の階に落ちた。 「痛っ――」 激しく足に痛みを感じる。今のは誰の叫びだ? いや今はそんな事を考えている暇はない。とにかく奴から逃げないと。 俺は扉を蹴り破り夜の街に飛び出した。