第一話
モンスターが跋扈し、人間が魔法や剣で戦っているような、現代とは全く別の違う世界。
人間は一致団結し、モンスターと戦い続けた。
苦しい戦いであったが、ある時を境にモンスターは、まるで氷が光を浴び、解け消えてしまったように、姿を消し、森や山、洞窟などにしか現れなくなった。
人間は神が我々を救ってくれたと信じ、突然現れたこの平和な時代を神からの贈り物として感謝した。
しかし、人間は愚かであった。
大陸フォーレリアでは国が乱れ、大小さまざまな国に分かれてしまった。
国同士が争いを続ける群雄割拠の時代を迎えたのである。
国が滅べば他の場所で国が起こり、人と人の争いが絶えず、大陸から戦いがなくなることはなかった。
再び平和を失ってしまった大陸の情勢とは無関係に生きる人々がいた。冒険者である。
彼らは人里には現れなくなったモンスターを狩り、
モンスターから取れる世にも珍しい品で生計を立てた。
そんな冒険者が5人集まった。
ホップ:「あ〜何でもいいから仕事ないかな〜。さすがに3日間水しか飲んでないからさすがの俺も
やばいな〜。雑魚でいいからモンスター退治の仕事でも・・・」
ホルン:「神のご加護がついている私は無敵です。人々のためにこの力を・・・」
アクセル:「は〜。前組んだ冒険者は外れだったな。もっとマシなやつと組まないとオレは・・・」
ジップ:「む、誰か来るな。慌てているようだから急な仕事か。そろそろお金もなくなってきたしここは・・・」
マイア:「う〜ん、冒険者成り立ての私がやるのにちょうどいい仕事は・・・」
慌てている村人:「すいません!!村にモンスターが突然現れて、村が襲われています!!どなたか
退治のために来てもらえませんか!?報酬は・・・」
5人:「詳細を聞かせてくれ(ください)!!」
慌てている村人:「とにかく、すごいんだって!ひとまず村まで来てくれ」
五人は街道を大急ぎで走りぬけ、村の入り口をくぐった。
マイア:「これは、いったい!?」
村は荒れ果てていた
そんな荒地にたった一人、少年が立っていた
少年の名は・・・リュウという
リュウはまるで死人には関心ないというような風だった
マイアは尋ねた
マイア:「あのコはこの村人の子供ですか?」
慌てている村人:「いや。俺は見たことないぞ」
アクセル:「アイツの目は人を殺せる目だ。いい目をしている俺達の仲間にしよう」
ホルン:「ともかく私達であの少年を引き取りましょう」
リュウは小柄だが筋肉が引き締まっていて大剣をもっていた。
その大剣は血まみれだったのだ・・・
―――来週へ続く
「ふぅ、面白かった」
少女は、手にもっていた漫画を棚に戻し、店から出ることにした。
「ああっ!!もうこんな時間!!早く帰んなきゃ!!」
少女の名は、山本裕子と言う。
「よし!!この角を曲がれば!!」
角を曲がったそのとき、裕子に強い衝撃がきた。
「いった〜」
「いって〜・・・って、山本さん?」
「へっ?・・・あっ!!」
そう、裕子がぶつかった相手は―――
学校でも女子から人気の高い上村君だった。
クラスの人でさえ私の名前を覚えている人は少ないのに上村君に覚えてもらっているなんて・・・。
裕子(心の声):「私にもついに運命の出会いがやってきたのかしら!?」
これはぜひともお近づきにっ・・・!」
しかし、こんなベタベタな展開でも人慣れしてない裕子が対応できるはずもなく。
裕子:「あっ・・上村君・・・。ごめんなさいっ!」
タッタッタ・・・(走り出す音
上村:「いえ、こちらこそ・・・ってもういないし(汗」
なんか忙しい子だったな。
・・・あれ?これあの子の学生証・・・」
---同時刻、紗江子がちょうど裕子と上村が二人でいるところを発見した。
*ここで紗江子の簡単な自己紹介をしておこう。
年は裕子と同じ17歳で特に個性もない普通の女子高生、裕子の親友的存在でもある。
ちなみに上村君大好きファンクラブ会員No.1♪*
ただ曲がり角でぶつかって倒れただけなのだが、想像力豊かな紗江子にはもっと違う様に見えたのだろう。
紗江子:「あの奥手な裕子が上村君にこんなに近づくなんて・・・」
たまたま紗江子がそうつぶやいた、その同時刻!
リュウがホップに切りかかっていた!
ホップは最初は驚いたが、剣で軽くなぎ払った。
ホップは笑って軽い調子で言った。
「コイツは予想以上に活きだな」
リュウはやはり体が小さく力では負けていた・・・しかしその小さな体の身のこなしでスグに体勢を立て直すとリュウはまたしても切りかかったのだ。
しかしさっきとは違った。片手で大剣を持っていたのだった。
左手には小さくとても鋭利なナイフが・・・
そのナイフはホップの首をとても深く切り裂いた。
血が噴水のようだ・・・と思った次の瞬間
大剣が残りの四人を次々と貫いた。
リュウはまたしてもいつもの事というような風であった・・・。
まさか同時刻にそんなことが起こっていたなんて知るワケもない紗江子は裕子に対しての感情をブツブツと物陰で愚痴るのだった・・・
次の日の朝、机の中に差出人不明の手紙が入っていた。
その手紙には、今日の放課後ロッカー室に来るようにとの旨が記されていた。
「いったいだれかしら。性悪〜」
裕子は不審に思いながらも手紙の指示に従った。
ひんやりとしたロッカー室にぽつんと一人立ち尽くす。
「まったく、自分から呼び出しておいてこないだなんて、どういう奴なのかしら」
そろそろ帰ろうかと床に置いたスポーツかばんを拾い上げたとき、すりガラスの扉にひと影が映った。
「紗江子・・・さん?」
戸惑いながらたずねる裕子。
扉を開けて中に入ったのは、険悪な形相の紗江子だった。
「あたし、見たんだから」
「え、なにを?」
「あなたが・・・・・・、あなたが上村さんと一緒にいるところ!!」
あら、と一瞬呆れたような表情になった裕子。
「あれは違うのよ、ただぶつかっちゃただけで・・・・・・」
そこまでいったところで裕子は息を呑んだ。
紗江子の片手に握られた、キラリと閃く物を見つけたのだ。
女子高生が刃物をちらつかせている同時刻に、
「くそっ、ネタがねえぞ!!!」
マンションの一室で漫画家が叫んでいた。
「つい勢いあまって5人とも殺しちまった!!!」
若手の人気作家である彼は日々迫る〆切に、
物語を壊すことをしてしまったのであった。
「もうこうなったらじじいをネクロマンサーにするしかない!!!」
眼を血走らせて机に向かう若手作家であった・・・。
裕子は思った。
「あぁ〜なんかフォーレリアって大陸では国が乱れ、争ってそうだなぁ〜」と・・・。
いやいやそんなことを考えている場合ではなかった。
あぁ〜そういえば紗江子ってヤツに絡まれてナイフなんかチラつかせてるんだったっけか?
裕子は冷静だった。
なんの躊躇もなく110番
紗江子は銃刀法違反で御用になってしまった。
「はぁ〜・・・この年で御用には、なりたくないわね・・・」
裕子が、呆れた表情でロッカー室から出ると後ろから声をかけられた。
「おーい、山本さ〜ん」
上村だった。
「―――ッ!!ハッ・・・ハイ!!」
裕子は、緊張のあまり声が上ずってしまった。
「??・・・これなんだけど昨日君が僕にぶつかったときに落としたものかなって?」
上村が取り出したそれは・・・
ちょうどその時!!!
「はぁ〜、今週も乗り切ったぜ・・・」
喫茶店の一角で若手作家が呟いた。片手にはコーヒーカップを持って、徹夜明けの疲れを癒していた。
「これで○社から50万か。くくく、漫画家とはぼろい商売だぜ」
目の下に隈を作っているのにこの人は何を言っているのだろうか・・・。
一方、紗江子は少年院で手紙を読んでいた。
母からの手紙だった。
「恋愛に刃物はいらない」
ただそう書かれていた。
紗江子はその一言に涙した。
そして紗江子は思った・・・
「慌てていた村人はどうなったんだろうか?」と。
「俺が行くしかないようだな」
村人は、地面に突き刺さった冒険者の剣を手に取り、同時に地面を蹴った―――
「ふっ!!」
剣と剣がぶつかり合う音が村中に響く―――
その後両者は、間合いを取り、じりじりと互いの隙をうかがっている。
「やぁぁっ!!」
体格に似合わない大剣を使っていると判断したのか、リュウが先に仕掛けた。
「うくっ・・・」
リュウ独特の上段切り下しを避け、村人は、反撃に出た。
「くらえやぁぁぁぁぁぁ!!」
その太刀は、リュウの腹をとらえていた。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
リュウは、妙な咆哮を残し、消えたのだった・・・
「くそっ・・・何だあいつは・・・」
こうして村の平和は、守られたのであった・・・
マイアは血だらけになった右腕を左手で押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。
マイア:「だれよ、あんな危険人物を仲間にする、なんて言い出したのは!!」
アクセル:「す、すまない。俺の見込み違いだった」
アクセルは地面に倒れたままで擦れ声をあげた。
冒険者五人は、村の宿に運ばれ、おのおの治療を受けた。
数日後、彼らは誰一人後遺症も残さず全快することができた。
村の少女:「あら、みなさん元気になったみたいですね」
アクセル:「おかげさまでな。せっかく駆けつけたっていうのに、リュウってやつに歯が立たずにやられちまったよ」
宿主:「お前らが回復できたのも、かえでのおかげだ。感謝しな」
アクセル:「おまえ、かえでって名前なのか?」
村の少女:「はい。でもでも、そんなたいしたことしてないんですよ〜。応急処置して、あとはこまめに傷口を清潔に保っていれば、みなさんの治癒力ですぐになおるような怪我ばかりでしたし」
アクセル:「いやいや。わざわざ俺たちのためにありがとな」
かえで:「えへへ」
かえでは子供らしく無邪気に笑うと、その場で一礼をした。亜麻色の美しい髪がはら、とたれる。彼女は顔をあげ、手で前髪をうしろのほうへ払いのけ、その部屋から出て行った。
アクセル:「はぁ、なんと美しい少女だ。将来楽しみだな」
宿主:「なにいってやがる。あいつは人造人間だぞ?」
旅人五人:「な、なんだって!?」
マイア:「うそでしょ?」
宿主:「うそついたって仕方ないだろう?ここから150アージュ離れた町が作った兵器さ。まぁ、かえでは任務中にこわれてしまって、戦うということを忘れたみたいだが」
マイア:「そんな技術があるのね。ちょっと、人造人間を作れるっていう国を教えて下さる?冒険者の血が騒ぐわ」
「編集長!!!どういうことです!」
若手作家が叫んでいた。ここはとある出版会社のデスクワークの場。皆が迷惑そうに叫んだ人物を見ている。そんな周りの状況には気づかず、若手作家はさらに叫んだ。
「俺が書いた原稿がなぜ今週の雑誌に載ってないんです!!!前ボツになったのが載ってるじゃないですか!!!」
そう叫んだ若手作家に編集長が、
「いや、だってグロイから。君が書いたゾンビって。さすがにあれを少年漫画にするのは無理っしょ。ということで来週からは気合い入れてきてね。じゃないと君切るから」
首切りのジェスチャーをする編集長に若手作家は口をぱくぱくさせた。
宿主:「でもなお嬢さん。あんなところには行かない方が良いよ。」
宿主は笑いながらコーヒーを入れてくれた。
ホップ:「そうだよ。そんな金にならない仕事しても意味ないよ。」
マイア:「冒険者の心が分からない人には分からないわ。」
コーヒーを啜りながら呟いた。
アクセル:「まあ、金にはならないが、気にはなるな。かえでちゃんの治癒能力は凄いしな。」
マイア(心の声):「急にちゃん付け?惚れたのから?」
ホップ:「そういわれると、気になるかもな。」
ホルン:「その話しの国の裏には怪しい動きを感じますね。ホップさん」
ホップがコーヒーを噴出し、ベッドのシーツにしみができる。
アクセル:「どうした?いきなり噴出したりして。」
ホップ:「だって、ホルンさん。話すことあまりないし。俺に振られるなんて・・・。」
ホルンは気にした様子もなく、話しを続けた。
ホルン:「町で暴れていたリュウという少年も気になりますし。」
マイア:「そうよね!怪しいよね!」
マイアが食いついてくる。
マイア:「やっぱり行った方がいいよ!!」
ホップ:「行きたくないよ〜。」
マイア:「じゃあ、多数決しよっ!行きたい人〜!」
マイアが勢いよく手を上げる。ホルンも静かに手を上げた。
ホップ:「行きたくない奴〜!」
ホップとアクセルが嫌そうに手を上げる。
マイア:「ん〜。あっ!ジップさんにきいてみよっ!」
アクセル:「やめとけよ。寝たんだし。」
ホップ:「いや。ここはハッキリさせておくべきだ。」
マイア&ホップ:「ジップさん!!!!」
二人がジップ近づき手を伸ばす。
ホ&マ:「うがっ!」
声の方を見るとジップの拳が二人の腹を突いていた。
ホルン:「条件反射ですか・・・。すばらしい能力ですね。」
ホ&マ:「マ、マ、マジで・・・?」
アクセル:「無意識のうちにやったと言うのか?やはり仲間になったのは正しかったか。」
マイア:「ジ、ジップさんに聞くのはやめとこ。」
ホップ:「ど、同感、、、」
そこへ宿主がやってきた。
宿主:「あのう。盛り上がってる途中悪いんですけど、やめといた方がいいですって。あの国は昔から荒れております。」
アクセル:「3対2で行かないに決定。」
ホルン:「皆さん!」
ホルンが合わない大声を出したので皆がそちらを向いた。
その声でジップも起きたようだ。
ホルン:「皆さん。確かに皆さんの言いは分かります。あそこは危険で私たちのような経験の少ない冒険者が行ってもメリットはありません。」
ホップが頷く。
ホルン:「でも、あの国にはリュウという少年のように他の町を襲う人間もいます。そういう人たちを野放しにしておくわけにはいけないんです。私が旅に出た理由もそういう所にありました。」
みんな静かになる。
ホルン:「どうでしょうか。アクセルさん、ホップさん。責任は私が取ります。どうか一緒にあの国に行ってもらえませんでしょうか?」
一瞬の静寂、、、、
アクセル:「仕方がないな。」
ホップ:「ア、アクセルが言うなら、、、」
マイア:「よっしゃ!決まり!」
急に空気が明るくなった。
マイア:「ジップさんもいいですよね?」
ジップ:「どちらでもよい・・・な。」
アクセル:「じゃあ。この宿を出て旅の準備にかかるか!」
心機一転、彼らの冒険が始まった。
「はぁ。何とか首にならずに済んだ・・・」
編集長に脅された次の日から俺は構成を練り直して描き始めた。それが反映されてか俺の作品は雑誌のトップに近い位置を占めるようになった。
だがそれだけではない。気分を変えるために遠出し、以前働いていたレストラン『ルサック』で描いたことが俺の創作意欲を増したのだ。それというのも、
「はい、お待ちしました〜」
店員―――飛世巴(通称とと)―――と再開したことが関係する。
作家:「ありがと。ととも劇団が終わった後にバイトするのしんどいだろ?」
とと:「ううん、そんなことないよ。好きでやっていることだし。そういう若手人気作家さんはどうなの?」
作家:「おだてないでくれよ〜」
とと:「ははは、ごめんごめん。クラスメイトだった東が漫画家になっているのがまだ信じられなくて」
ととは俺が高校生のときのクラスメイトだった。愛称で呼んでほしいと、ととがクラスの皆に言ったから俺もそう呼んでいる。
いつも明るくて、好きだったやつも多い。変なあだ名を皆につけていたが。俺は『あずちん』と呼ばれるのが嫌で止めてもらったが。
俺も好意を持っていたのだが、皆と話すととには壁があるようで、俺は精神的に壁を作るととをそれ以上好きになることができなかった。
東:「今日の稽古はどうだった?」
とと:「う」
苦いものを口に含んだような顔をするとと。
東:「また叱られたんだ?」
とと:「うう。宮さんが言うことは正しいから私が悪いけど」
宮さんというのは劇団のオーナーだ。鬼監督でもある。ととの演技で足りない部分を容赦なく怒鳴ってくるとのことだ。
他の店員:「巴さん!注文とって!」
新しく客が入って来たようだ。店が空いている時だったが他の客が来たようだ。
とと:「あ、はい!待ってて東くん。バイトもうすぐ終わるから」
東:「了解〜」
ととはすぐに客の注文をとりに言った。
俺とととは偶然再会した日から、彼女と会話を重ねるうちに、彼女に告白された。徐々に壁が取り払われていき、ととは「演技をするようになってから日常的に演技をするようになってたの」と告白のとき話してくれた。俺は再会した日から彼女に惹かれている自分に気づいていたので、もちろん了承した。「俺もととが好きだ」と言って・・・。
「やっと終わった〜」
ととが俺のところに来た。バイトが終わったのだろう。俺はその間漫画を書いていた。
「東いこっ!」
「ああ」
昼の2時に終わると分かっていたので、俺たちはこれからデートをすることを約束していたのだ。嬉しそうなととの笑顔に俺も笑う。
ととのことが好きだ。俺は彼女をずっと守っていくと笑顔のととを見て誓った。(続く)
上村が取り出したそれは・・・
ナイフだった
「えっ!?」
そのまま、上村は裕子に切りかかった
「―――っ!!」
裕子は、それを半歩体を後ろにそらしかわした。
「ひゅう・・・やるね」
上村は、体をかがめ裕子に突進した。
・・・が、
「ぐっ・・・がっ、馬鹿な・・・お前は、おんなじゃぁ・・・」
「固定概念だな、上村ぁ・・・」
裕子は、無防備に突進してきた馬鹿な上村に、必殺の回し蹴りを放ったのであった。
「女が強くて何が悪い・・・」
「くっそ・・・」
「児戯に等しい」
上村の意識はそのまま闇に消えた・・・
「あー怖かった・・・でも一回してみたかったんだよねこれ、でもどうして上村君襲ってきたんだろう・・・」
そのときだった
「知りたいかねお嬢ちゃん」
「えっ・・・」
そこには・・・誰もいなかったはずのそこには、初老のおとこがいた・・・
「知りたいのなら、この5人を倒してほしいのじゃが・・・」
「この5人って・・・」
そう、その5人は・・・
ガバッ
紗江子は少年院の硬いベッドで目覚めた。
時刻は午前2時。
彼女は悪夢を見た。
「夢・・・」
彼女は不安におびえた。自分ではなく裕子の危険に。
「裕子・・・私たち・・・友達?」
紗江子は自分の気を紛らわすために昼間買ってきてもらった雑誌を手に取った。
「第二十八話・・・ディアフレンド・・・」
棒読みだった。
宿主さんにその人造人間を作っている町の話をしてもらった。
その国の名前は「ディクタトア」。昔から治安の悪い国として知られ、内乱が絶えない。
その国の政府がどういう構造になっているのかは全く不明で、最近になって他国への侵略を始めているそうだ。
五人は宿のカウンターテーブルに座り、朝食をとっていた。
アクセル:「全く。謎が多すぎる、この国はなんなんだ。」
広げた地図を撫でながら言う。
マイア:「謎だからこそ冒険に行くのよ。」
ホップ:「ほんと若いよな。心だけ・・・」
ホップはコップのコーヒーを混ぜる。
マイア:「何か言いました?」
ホップ:「いいえ。何も言ってませんよ。」
アクセル:「馬鹿言ってないで、真面目に考えろよ。これから行くんだぞ、この国に。」
ジップ:「そうだ。作戦も立てずに乗り込むのはどんなに愚かなことかわきまえろ。」
そんな言葉にも関わらず、二人は言い争いを始めた。
ホルン:「宿主さん。ここからディクタトアまで近いですけど、攻め込まれた事はないんですか?」
宿主:「ああ。その国まで直線で行くと、山あり谷あり砂漠ありで軍は送り込めないんだ。あ、安心しな。ディクタトアの植民地のエルゼ=ノールまでは列車が通ってる。そこからは国内線か街道でいけるはずさ。行ったことないんだが。」
ホルン:「なんとも幸運ですね。もしくは、幸運だから残ってるんでしょうか。」
宿主:「そんなのどっちだって結果は変わらないよ。」
アクセル:「何か作戦は・・・。」
ジップ:「こんなのはどうだ。植民地の領主を殺して土地と交換に他国への侵略または迫害を止めさせる。」
ホルン:「いい考えだとは思いますが、乱暴ですね。また、時間もかかります。やはり、国王に直接頼むしかないでしょう。」
アクセル:「まあ、とりあえずは行ってみないことにはな。」
ホルン:「貴重なお話、ありがとうございました。」
宿主:「本当に気をつけて行けよ。」
アクセル:「ありがとうございました。」
ジップ:「世話になった。」
アクセル:「ジップ」
ジップ:「ん?何だ?」
アクセル:「あの馬鹿二人を連れて来てくれ。荷物は俺が持つ。」
ジップ:「ああ。」
ジップはアクセルに荷物を渡し、喧嘩している二人を宿の外に引きずり出した。
ホルン:「駅はこっちでしょうか。」
五人は歩き出した。
???:「ちょっと待ったー!!!!」
宿の方から叫び声が聞こえた。
ホルン:「この声は・・・。」
大荷物を持って宿から走ってくるのは、亜麻色ショートの女の子。
アクセル:「かえでちゃん!」
かえで:「あのさあ。勝手なんだけどついてっていい?」
アクセル:「いいとも、いいとも。でもどうして?故郷に帰りたいの?」
かえで:「ううん。違うよ。救済だよ。」
ホルン:「救済?」
かえで:「ああ。こっちのはなし。
私は他の人造人間さんたちを助けたいの。あそこは酷いとこだったから。
私は戦う能力をなくして運良く拾われた。だから幸せに暮らしてる。みんなにも同じ幸せをあげたいから。」
アクセル:「そうか。かえでちゃんは優しいな。じゃあ行こう。」
ジップ:「ちょっと待て。いくらなんでも急過ぎだ。それにおなご一人増えれば足手まといでは?」
ホルン:「そんなことはありません。彼女の治癒能力は素晴らしいです。」
マイア:「そうよ。誰のおかげで生きてると思ってるの。」
ジップ:「そうだった・・・すまん。」
かえで:「謝ることなんてありませんよー。実際、どこまで役に立てるかわかりませんし。」
マイア:「そんな謙遜しなくてもいいのよ。」
アクセル:「お前はもっと謙遜しろ。新入りの癖に。って喧嘩終わったのか?ホップはどこだ?」
マイア:「あいつはあそこだよ。」
マイアの指差した先にはホップは倒れていた。
アクセル:「お前ッ!何をした!?」
マイア:「蹴り入れただけ〜。」
アクセル:「馬鹿ッ!」
アクセルはホップの亡骸(?)を取りに行った。
マイア:「まあ。兎に角!仲間は多い方がいいよね!
紗江子は雑誌を閉じる。
少し気持ちが落ち着いた気がした。
きっと裕子は無事だ。否、悪夢を気にし過ぎだ。
考え直した紗江子は再び眠りについた。
――――――――それから十年後・・・。
東:「はっ、はっ、はっ・・」
東は産婦人科の病院の廊下を走った。それは・・・。
東:「とと!!」
とと:「東!!病院を走っちゃダメだよ!」
東:「うっ」
とと:「まあ、いいけどね」
ととはそう言って東に笑顔を見せた。ととの腕の中には赤ん坊が抱えられていた・・・。
とと:「ほら、お父さんですよ〜」
東はととが寝ているベッドに近づくと、赤ん坊を覗き込んだ。
スヤスヤと寝ている。その安らかな寝顔を見て、東は破顔した。
東:「かわいいな」
とと:「うん」
東とととの間に生まれた赤ん坊だった。
東:「名前は?」
とと:「志貴だよ」
東:「男の子?」
とと:「うん」
赤ん坊を起こさないよう、ふたりは静かに喋った。
東とととは同棲していたので結婚生活も何の問題もなく始まった。東の仕事もはかどり、ととも子育てと劇団を完全に両立していた。
そんなある日
ドゴーン!!
東:「あの方向は!?」
出版会社からの帰り道、その爆発は突然起こった。かなりの爆発だ。あの方向には俺の家がある!!!ととと志貴がいる家が!!!
東:「はぁはぁはぁ」
全力で走った。遅い!遅い!遅いんだよ!!もっとはやく!ととと志貴が無事であるのを!!!
どさっ
俺の家が炎上していた。跡形もなく燃え尽きて・・・・。
東:「うおーーーーーー!!!」
(認めない。認めないぞ!二人が死ぬなんて!!俺は何が何でも認めない!!!)
それから、俺の周りでは人が入り乱れた。
彼らは俺に、「残念ですが、奥さんと息子さんは亡くなりました」と言っているが、俺は絶対に認めなかった。
(あきらめられるものか!!)
そんな俺を周りは狂人扱いしたが、俺は一切無視した。そして・・・。
東:「くっくっくっ」
あれから五年、俺は何が何だか分からず、がむしゃらに生きた。俺の家を爆発させた犯人を追いかけたが、その行方は知れず、俺は別の視点から目的―――ととと志貴をとり戻す―――に迫った。
東:「ついに完成だ」
見つからない、生き返すことができないのならばその事実を無かった事にすればいい。今の俺という存在が消えてでも、ととと志貴が生き返るのであれば―――
東:「行くか」
(俺は完成させた!!!タイムマシーンを!!!)
彼の目の前には複雑な紋様が描かれた門。彼が言霊を唱えると門が輝きだし、彼はその門をくぐり抜けて行った・・・。
光が消えた後には門も彼もそこには存在していない・・・。
どこからか声が聞こえてくる。ととと志貴が記憶の影となり薄れていく。
東:「とと――――――――
気が付くと東は列車の中にいた列車といってもかなり古風な列車・・・
東:「この音は・・・蒸気機関車?」
東は座席から立ち上がり周りを見渡す。乗っている乗客は少なかったがここが日本ではないことはすぐに分かった。なぜなら、それぞれ服装は違うものの麻でできた布やら何やらを着ていたからだ。それらの服装に対して東のワイシャツはあまりにも場違いな雰囲気だった。
東:「どういうことだ・・・」
:「おいっ!」
東:「・・・・・・・・・っ!?」
突然の大声に東は腰を抜かして、座席に座り込んでしまった。声の主を探すと、それは東の隣の席にいた。そこにいたのはヘビだった。明らかにただのアオダイショウだったが、じっとこっちを凝視していた。
東:「何なんだ??」
蛇:「ここは貴様の創り出した世界だろうが。」
アオダイショウは口も動かさずに言った。なぜか分からないが伝わってくる。
東:「ど、ど、どういうことだ。」
蛇:「貴様は時空をひねる装置を生み出した。だが時空を操る事は不可能だ。時空は次元から横方向に伸びている世界であって例え亀裂を作ったところで操ることができずに錯乱を起こすだけだ。貴様は妄信するあまり時空間移動が可能かと思ったのか知らんが、三次元の世界で四次元の世界に影響力を及ぼす事が不可能な様に時空に力は及ばない。装置により貴様の空間を失った貴様の意識は強制的に覚醒するためにこの世界を創り出したのだ。」
東:「・・・・・・。」
長い薀蓄のうちに混乱もすっかり収まった東だったが状況は理解できていなかった。
東:「どういうことでしょうか。」
蛇:「まだ分からんのか。小学生でも分かるような言葉しか使ってないぞ。」
東:「でも、それは大学生でも理解できない。」
蛇:「大学も卒業していないのか?」
東:「卒業しました。」
蛇:「ならば、なぜ分からんのだ?」
このままでは話しが進まないと思ったので東は話しの方向を変えた。
東:「あなたは何なんですか?」
蛇:「アオダイショウだ。」
東:「それは分かりますが、ただのアオダイショウは喋りません。修飾語を付けてください。」
蛇:「喋るアオダイショウだ。」
東:「そういうことじゃなくて・・・。」
全く話しが進まない奴だと思った。これからどうしたらいいのだろうか。
初老の男は道を空けるように横に一歩ずれた。
廊下の向こうから五つの影が歩いてくる。ぶかぶかのコートを五人が全員かぶっていたので顔は見えなかった。いかにも怪しい感じが漂っている人達だ。そして、裕子の前まで来ると五人は立ち止まった。
思わず裕子は後ずさる。
「っちょ、ちょっと待ってよ。何で私がこんなことにならなきゃいけないのよ。わけわかんないよ。」
初老の男はにやりと笑って言った。
「全く分かっていないと。では今のうちに片付けるのが得策だろう。」
「っく。こんなの勝てるわけないじゃない。上村君倒したのだって偶然…。」
「偶然っ!!?」
初老の男は大声で笑い出した。
「この出来事が偶然だと!?それならお前が狙われるのも偶然さ。通りすがりのじじいに偶然殺されたのさ。はははははは!」
男は笑いながら指を鳴らした。
すると、コートの五人が一斉に広がり裕子を囲んだ。
くっそ〜。柔道部だからってこんなの勝てるわけないよ。型もまともにできないのに…。
完全に囲まれた。恐らく前から襲って隙ができた所で後ろからとどめを刺す気だろうけど…。コートの中に何を隠し持っているか知れないし・・・・。
「……ッうしろっ!」
うしろからの気配を感じ、左手を伸ばし、自分のうしろに居るだろう人に振り落とした。
どふっ!
右側にいた相手の顔にパンチを喰らわせる。こいつも、すぐに倒れた。意外と弱いのか。
一人目の体を乗り越えて来ようとしている奴に、とび蹴りを喰らわせた。しかし、足をつかまれ床に肩を叩きつける。足に力を入れ、手を振り解く。そのまま、受身を取り体制を立て直す。
「……ちっ。意外と強いじゃないの。」
「当たり前だ、私が選んだ男五人に女が一人で勝てるわけがない。」
「違うわよ。わたしが強いってことよ。」
つづく・・・・・・・・のか?